映画批評

こういうのでいいんだよ サンダーボルツ*

ちょっとここいらで、MCU作品のレビューをば。

マルチバースの話の軌道修正を余儀なくされてから(ラスボスの俳優の逮捕・降板など)、この先広げすぎた風呂敷をどうやって回収するのかという懸念から、若干盛り下がっていた印象はありました。しかし、前作の『キャプテンアメリカ ブレイブニューワールド』に続き、今作も良い方向に軌道修正してきているように感じました。

マルチバースは、正直申し上げて少しお腹いっぱいです。

ここ最近のMCU作品は、「様々な世界が存在し、それらが衝突するとすべてが崩壊してしまう」という形で物語が展開してきましたが、ファンタジー要素が強くなりすぎてしまい(遥か彼方の銀河系の世界を行き来するなど)、誰と戦っているのか分かりづらくなってしまったと感じます。2023〜2024年に公開されたMCU作品は、個人的にはあまり心に響きませんでした。大まかに言えば「異世界へ行って、行方不明になった仲間を助けに行く」という展開が多く、脚本が似たり寄ったりに見えてしまいました。

やはり、スケールの大きすぎるものではなく、もっと身近な人を救う姿を見たいと思ってしまいます。そのため、先日のキャプテン・アメリカと今回のサンダーボルツは、とても良かったと感じました。

「そうそう、こういうのでいいんだよ。」と、思わず頷いてしまいました。舞台は地球で、政府の陰謀を暴くといった内容。必ずしも全員が宇宙に行ったり別世界へ行ったりしなくてもいいんです。

隣人を救えなくて、何がヒーローなんでしょうか。

それはさておき、今作は『エンドゲーム』でMCU作品から少し距離を置かれた方にも、比較的入りやすい内容であったかと思います。今回のサンダーボルツをご覧になる上で、エンドゲーム以降に公開された映画やドラマの中で抑えておいた方が良いのは、『ファルコン&ウィンターソルジャー』と『ブラックウィドウ』くらいで、「この人は誰だっけ?」となることも少なく、とても観やすい印象でした。

ただし、ドラマシリーズでアベンジャーズの本筋を進めるのは、あまり好ましくないのではないかと感じます。『ムーンナイト』のように、本筋に関係ない作品を制作する方向性であれば歓迎です。

今回、軌道修正を感じられたこともあり、離れていた方々も戻ってきてほしいと思います。

ここからネタバレ含みます。(ストレンジャーシングスのネタバレもちょっと含みます)

サンダーボルツの内容としては、ほぼ『スーサイド・スクワッド』に近く、ヴィランとして登場した人物たちが活躍する物語です。しかし、彼らは人間味があり、良い面も悪い面も併せ持ち、妙に魅力的でした。

ボブが暴れ出して精神世界に入り込んでしまう場面は、『ストレンジャー・シングス』を彷彿とさせました。アレクセイはまさにホッパーそのもの。

どなたの漫画かは失念しましたが、数年前にTwitterで見かけた「親から虐待を受けて鬱になった人の話」で、自分の中の黒い影が心にのしかかってくる描写を思い出しました。

ボブはボブで、とても共感を呼ぶ登場人物だったと思います。誰からも注目されず、周囲から透明人間のように扱われてきた、ごく普通のボブが突然超能力を手にし、自分の力を制御できなくなったときの恐怖は大きかったです。(これは『ジョーカー』が銃を手にしてしまったときの無敵感にも通じるかもしれません)

それでも仲間の優しさに助けられて元に戻るという展開は良かったです。まさに『ストレンジャー・シングス』のようで、脳内ではケイト・ブッシュの曲が流れていました。

さらに、意図せずニューアベンジャーズになってしまうという展開には、不意を突かれて笑ってしまいました。サンダーボルツの面々をニューアベンジャーズにしてしまう発想は非常に巧みだと思います。

アイアンマンのトニーも、キャプテン・アメリカのスティーブも不在の中、一体誰がアベンジャーズの中核を担うのかというのは、現実でも映画内でも課題でした。(シャンチー、エターナルズ、アントマン、デッドプール、ドクター・ストレンジ、X-MEN… 二代目キャップはあまり乗り気ではありませんし。)

「えっ、この人たちがアベンジャーズ?」という驚きはありましたが、初代のようなアベンジャーズはもう誰もなれないわけで、「先代の方が良かった」という比較になってしまうなら、いっそ全く関係のない人たちをアベンジャーズにする方が適しているのかもしれません。スター不在でも、サンダーボルツには応援したくなる魅力がありました。

上手くやったなと感じます。今後公開されるであろう『アベンジャーズ5』では、ラスボス役にアイアンマンを演じていたロバート・ダウニー・Jr、監督は『エンドゲーム』のルッソ兄弟という情報もあり、また盛り上がっていく予感がします。

それにしても、バッキーはやはり格好良かったです。