いろいろなメディアで良かったという評判が多く、つい気になったので『国宝』を観てきました。
『国宝』の監督といえば『フラガール』などの作品がある李相日。硬派で骨太な映画が多いイメージがあります。
今回の『国宝』も例に漏れず、かなり骨太な映画でした。
かなりネタバレが多いので予めご了承ください。
主演俳優の凄味
主演は吉沢亮さんと横浜流星さんという今をときめく俳優2人なんですが、売れている俳優2人揃えておけば、まあ外さないよね、どうせ2人のプロモーションみたいなアイドル映画なんでしょ?と最初は考えてしまいましたが全然違いました。
観る前にこんなことを考えてしまった自分が恥ずかしくなってしまうぐらい2人の演技がすごかったです。この映画撮るためにかなり努力をして命を削りまくったんだろうなっていうのがスクリーンから伝わってきます。
仮面ライダーフォーゼをリアルタイムで観ていた身としてはかなり感慨深いものがあります。(横浜流星さんに関しては数回しか登場できないほどまだまだ駆け出しという時期でした)
1人の人間がいかにして人間国宝(ある意味で妖怪または悪魔)になっていくか、というのが映画の主軸でしたが、吉沢さんは物語上だけでなく自身の俳優としても妖怪になられたんだなぁということを思いました。少し前にそれほど大事でもないようなスキャンダルがありましたが、そうした出来事が却って深みを与えたんだと感じました。
ちなみに主演2人に埋もれがちかもしれませんが、黒川想矢さんと越山敬達さんにも個人的に拍手を送りたいです。彼らも吹き替えなしで歌舞伎を演じられたそうで、ほとばしる汗や引き締まった筋肉がとても眩しく、彼らのバトンがあったからこそ成り立つ映画でもあったと思います。(ホクロは仕方なかったのかなという気がしないでもありませんでしたが笑)
ストーリーについて
内容としては王道な部類かと思います。『フラガール』に歌舞伎と少量の『ジョーカー』のフレーバーを足した感じかなと。
3時間ある映画ではありましたが場面転換がかなり多いので飽きる事なく観ることができました。
ただ、3時間という尺で1人の人生を辿っていく話なので、次のシーンで数年経ってしまうということが多発しており「もう5年も経っちゃったの?」ということを思ってしまったりはしてしまいましたが、逆にこういった時の流れというのが残酷な感じにもなっていたので、そこは思わず「は〜」と唸ってしまいました。特に一度歌舞伎の世界から離れて数年経ってしまうシーンなど。
ストーリー自体に関しては、まあ普通という印象でしょうか・・・。
「芸」に携わる人にとってはかなり刺さる部分は多いと思います。
しかしながら、この映画の良さは物語だけにあるのではない、と言えます。
歌舞伎は不気味?
白塗りに派手なラインという歌舞伎のイメージに慣れてしまっていたので、改めてじっくり映像で観ると不気味な感じがあったんだなと思いました。
白塗り顔に充血した目がかなり不気味で、田中泯さん演じる人間国宝は妖怪そのものでした。その不気味さ、おどろおどろしさが歌舞伎の魅力でもあるんですねぇ。
白塗りしてる最中の「お前の血をコップに入れて飲み干したい」的な台詞には鳥肌が立ちました。
名前を忘れてしまいましたが小さい頃に歌舞伎を舞台にしたゲームのことを思い出しました。とても怖かったことを覚えています。
色使いの繊細さ
歌舞伎といえば雅なもので大体の映画の中では彩度がギャンギャンに上げられて赤色がギラギラになっている場合が多いのですが、『国宝』は彩度が抑えめで全体的に少し黄色味がかかった色合いになっています。なので赤が主張しすぎず、画面の色合いのバランスが取れており画面上にあるいろいろなものに目が行きやすいんじゃないかなと。歌舞伎は演者だけでなく舞台装置等いろいろなものに魅力が詰まっているので、この映画の色彩感は歌舞伎の魅力を100%引き出していて、すごいとしか言いようがありません。舞台全体が主役なんだ、という画作りです。もう拍手しかできない。
総評として
この映画に携わった全員が本気で取り組み全力で命を削って作った映画だな、という感じがしました。血が通っていて魂が籠るというのはこういうことを言うのだと思います。
『火の鳥 鳳凰編』を読んでいるような気分でした。
映画の登場人物の生き様から、そして俳優や映画制作に携わった人から創作というものに対する熱意が伝わってくる映画だったのではないでしょうか。
映画館で観るべき映画かと思います。
『フラガール』ももう一回観直したいです。